生徒会朧月夜
          (それは、誇りをかけた殺し合い)







最初はただ、ただで学校行かせてくれるなら、と思ってた。
親には頼りたくねぇし。

しかも、人とかかわりたくないお年頃の子に『授業が嫌なら生徒会室にいればいい』という交換条件まで出してきた。
――そんな条件載らない訳がねぇだろ。

そんな奴の言葉をあっさり受け入れた。
ただ、その後ろにこんな物があるなんてこと、想像もしてなかった。





『ここの学校の陣地を広げてくれればいいんだよ。』
ただ、それだけの言葉を十五歳と言う若い私たちはあっさり了承した。
陣地、をどう広げるのか。


「あーーー!!」


いくら夜中だといえどこの街は何時までも騒がしい。

センター街、柄の悪い連中が集まりたかり、裏の世界の足を突っ込んでしまった者たちが大手をふるって歩く街。
そんな中に一際目立つ、四人の女たちがいる。
その中から、中世的な声が街に響き渡った。

新しい日が来て早、二時間がたった。

午前、二時―古代的には丑の刻とも言うのか…。
そんな時間に、女四人が出歩いていること自体不思議といえば不思議な状況だ。


「もう、椋ちゃん五月蝿い」

「だってよぉ、梓…」


椋と呼ばれた女は背格好…、何から何まで男のような振舞いをしているがよくよくみれば赤い髪が印象的な整った顔立ち。
女特有の、胸元の膨らみも多少ながらはある。
例え、胸がないとしても身体の細さから大体のものは女だ、と言われても納得はするだろう。

椋は、ピンクの花柄の髪留めでウェーブぎみの髪の毛を留めていて、独特なグレーを貴重とした制服のスカートをはき上は、ワイシャツの上にパーカーを羽織っている。
微妙に開いたままのパーカーからは時折、可愛らしくネクタイをリボンのように結んだものがチラリと除かせる。
目鼻立ちがしっかりしていて特にパッチリとした眼が印象的な梓、と言う少女に椋は返した。


「これ、買ったばっかりのジャケットなんだけどよ、普通に返り血浴びちまってんだけど…!」

「…うわー、本当だ、お前ヤる時のツメが甘いんだよ」

「うっせ、雪」


会話に入ってきた金糸の髪を肩の辺りで一つにまとめにしている女に椋はばっさりと言い返す。
その返答が気に入らなかったのか雪と椋は軽い口論となる。

街がざわついていることに気付いたのは一人そんな三人を置いて一人先に進んでいた女。
こいつが頭だ。と言うのが明らかに分かるくらいに威厳がある。
美人の無表情ほど恐ろしいものは無い、とどこかの芸能人が言っていた。
それを思わせるほどの、整った顔と長いキレイな漆黒の髪の毛が何とも言えないくらいマッチしていて見惚れる反面、『恐ろしい』と言う印象まで与えてしまう。

…街に集まっている性質の悪い奴ら。
男にしても女にしても。
――大人にしても子供にしても。


「なぁ!玲稀、何でオレが悪いみてぇな空気になって」

「……お前たち黙って歩け」


女は玲稀と呼ばれた。
すらっとしたスタイルが何とも言えないくらい美しく、一人制服の上に上着を羽織っていた。
『YOTSUBA』と書かれた上着は誰もが知っている、有名な難関校だった。

玲稀はお前たち、と言う言葉で指した三人を振り返ってみることもせずにそう言う。
態度が悪いと言えば確かに悪い。しかし、それでも反論をしないで椋たちは少しばかり静かにする。


センター街の真ん中を歩くということは、確かにそこに居座ってるバカ共喧嘩を売るようなものだ。
ただ、黙って歩いていたらそれなりに別だったのかもしれない。
玲稀は、初めて表情を崩した。

眉間にしわを寄せて、目の前にやってきた男のグループを見据える。


「…あ?何こいつら」

「…だからお前らと一緒に歩くのは嫌だつったんだよ、面倒くさいことになる」


玲稀は面倒くさそうに溜息を吐いた。
そして、今のイラつきを抑えるようにポケットからあるものを取り出す。
それは、セブンスターと言う種類の煙草。玲稀は箱から出して同時にライターで火を着ける。

ふー…と煙を吸う。
そして、はー…と喫き出した。

そんな玲稀の態度を見て気に入らないそうに眉間に皺を寄せたのは目の前に立った相手グループのリーダー格の男だ。
否、正確に言えば、リーダー格の男だけじゃなくそのグループ全体が気にいらなそうに見ている。

玲稀はリーダーの男と視線をあわせたまま動かない。
後ろにいた雪が口を開いた。


「なーにー?」


そんな雪の言葉に気にいらなそうに男は返してくる。


「お宅ら、もぐり?」

「…もぐり、ってセンターなんて趣味悪ぃところ誰が来んだよ。俺たちそんなに暇じゃねーの」

「椋ちゃんは馬鹿なんだから黙ってなさい」

「…はいはい」


梓の的確な言葉に椋は素直に黙る。
そんな光景を見て玲稀は呟いた。


「付き合ってらんねぇ」


そう言いながら男たちを避けて歩いて行く。
そんな玲稀の腕を一人の後ろにいた男が掴んだ。


「ちょっと、待てって嬢ちゃん?」

「…用事だったらあの馬鹿共に言えばいいだろ」

「こっちはお前らが何ものなのか、ってのに興味津々なんだけど?」


下品の男は笑い、玲稀の肩を抱くようにして捕まえる。
玲稀は振り払おうとするが、それは男の力、振り払う前に腕に収められた。


「…ねー?そのYOTSUBAの文字ってよ?あの四葉ヶ丘のプリンスだけが切れるっつー制服の上にいる上着のことだろ?」

「…だったら?」

「そんなん着れるなんて、よほどのおじょーさまだろ?…なんでこんな時間にこんな所にいるんだろーね?」


にやり、と笑いながら男は玲稀の耳元で囁くように言う。
雪たちはそんな光景を睨みつつも楽しそうに見ている。

玲稀は酷く気分を害したようで、男を睨んだ。


「残念、そんな顔されたって逆にソそるだけなんだよなー?」

「そこらへんにしとけばー?」


玲稀が腕を上着の中ポケットに忍び込ませていることに気付いて慌てて口を開いた。
慌ててないように見えるのは彼女の性格の問題だ。

玲稀を抱きしめてる男とは別の男が雪を見た。


「お前ら自分の状況分かってるのか?俺たちだってそれなりの組織にいるんだぜ?若いながらもナ」

「…え?お兄さんたちあちらの方々?それともただの捻くれたギャングたち?」


梓が尋ねる。
もし、本格的にあちらの方々ならこっちにはそちらの方々専用の最終兵器がアル。

しかし、雪の忠告も無視して玲稀を離さなかった男に魔の手は忍び寄っていた。


「…そりゃ随分と悪趣味だな」

「――――っ」


玲稀が取り出したものは、列記とした殺人の道具だ。
その世界ではチャカなどとも呼ばれている。鉛で出来た冷たい玲稀の髪の毛同様、漆黒のそのボディーは息を飲み込むほどの威圧感がある。

拳銃、と呼ぶのが一般的だろうか。
それを玲稀は男の米神に押し付けて口を開いた。


「―――下衆が」


玲稀が取り出したものに眼を見開き、焦りだす男たち。
それに対して追い討ちをかけるように雪たちが口を開いた。


「さっき、言ったよなぁ?おじょーさまなのか、って。確かに家には捨てるほどの金がある…。けどなそれは親のもんなんだよ」

「でーも、私たちは親のお金のお陰なんかじゃなくて自分の実力でコレ与えてもらってんだけど?」

「つっか、お前らどこの組のもんよ?」


最後に口を開いたのは椋。
椋は続けて男たちに言う。


「――随分と威勢がいいじゃねぇか、うちの事務所にでも、案内して差し上げようか?」


にやり、と口端を吊り上げた。
男たちの頭は混乱しないはずが無い。

四葉ヶ丘、と言う名の世界でも有数のお嬢様校のどちらにしても良いカモを見つけたはずの俺たちが、何でこんなメに遭わなければならないのか。
また、同時に何でこんなガキどもがチャカ(銃)や『事務所』などと言うある種の専門用語を出してくるのか。

訳が分からない。
ただただ、分かることは一つだ。

――関わらないほうが懸命だ。


「どーしたの?おにーさんたち?」

「まぁ、逃げるなら今のうちだぜ。さもなくばマジであの世逝き」

「事務所、行くつっても面倒くせぇな、代行の野郎いるのか?」

「親父の孫だつったら、代行じゃなくても話通じないのー?」

「まぁ、ンな見るからに頭軽そうなのが出てきたら冗談と取られてもしゃーねぇな」

「玲ちゃんは、そういう会話だけは参加して来るんだから」


まるで、世間話をするかのように女たちは会話を続ける。
男グループの内の一人が隙を見計らって先にはしって逃げていく。


「!あ…ッ!テメェまちやが」

「どっちか絡んだのか分からなくなってんじゃねぇか、馬鹿女」


追いかけようとしてどうする、と玲稀が呟きながら椋に告げる。
梓が言う。


「来るもの拒まず、行くもの追わず。追うものは逃げるのだよ、椋ちゃん」

「けどよっ」


絡んできた相手を野放しにするのは椋のプライドに反するらしく、椋は梓に向けて大声を上げる。
それを見ていた雪が「ばぁーか」と小さい声で呟いた。


「何か、問題ある?」


はっきり、ゆっくり、にっこり。
これは、梓の腹黒さを表す三大用語だ。(四葉の中では)

笑顔に耐えかねて、椋は「すみませんでしたー」と謝った。

そんな中、玲稀は押し付けていた銃を離し、男たちに言う。


「今日は見逃してやる。キエロ」

「―――っちくしょ…!」


男たちはそんな風に呟きながら去っていく。
それをみて、椋が言う。


「何年前の不良だよおっさん等」

「―確かに」


雪が珍しく同意した時だ。
椋も口を開く。


「へへっ、一昨日来やがれ」

「……お前もナ」


そんな風に雪が呟いたことは、勝利で舞い上がっていた椋にはきっと分からないのだろう。
知っているのは、それに心の中で軽く同意した玲稀と梓だけ。







「…『ここの学校の陣地を広げてくれ』ねー…」

「あ?」


急に雪が呟いた言葉に、三人は止まって雪を見た。
セブンスター、は中年男性が吸う煙草で有名なはずだがそれを玲稀と雪は愛煙していた。

梓が尋ねようと口を開く。
そんな姿を玲稀は漆黒の瞳で追った。


「どうしたの?雪ちゃん、急に」

「えー?…否、別に。つい、一年と三ヶ月前のこと思い出した」

「…歳?」

「椋、テメは黙っとけ」


そんな、雪の言葉に椋はへいへい、と不貞腐れたように返す。
玲稀は玲稀で、一年三ヶ月、と言う具体的な数字を言われて「もう、そんなにたったのか」と内心思う。

雪は続けて言う。


「一年三ヶ月。色々あったな」

「ねー、と言うことは私たちが出会ってからそんなにもたつんだね」

「――早いー、ね」


梓に言われて雪は尚更そう思う。
そうか、もうそんなにたったのか。


「俺たち、あんま成長しねーな」


椋に言われた一言に、玲稀が返す。


「まぁ、テメェの頭は幾分か成長したんじゃないのか」

「…お前はそういう不貞腐れたり、皮肉めいた物言いが全然直らねぇーのな」

「そう雪ちゃんは日々煙草の数が増えてるよー?」

「それは玲稀もだーしょ」

「―そういう、梓、お前は随分と良い性格になったな」

「やだなぁ、そうかな。まぁ、昔と比べたら増しかもね。 人間、過去に囚われてたら生きていけないんだよ」


梓の言った言葉で、もう一度沈黙が訪れた。
嫌な意味の沈黙ではなく、ただただ自分を見つめ直すような沈黙。

沈黙が破られた時には、四人の気持ちは一つになっている。


「…なぁ」


椋が沈黙を破る。


「…あんだよ」


雪が返す。


「…俺たち、さ」


椋がまた言う。


「――生き残るに決まってんだろ」


玲稀が椋の言葉を遮って返した。
玲稀の言葉で、全てがまとまった。

梓が最後に口を開いた。


「私たちは、負けない」


自分の、過去に打ち勝つために。





『生徒会朧月夜』
奇妙な名前の、デスバトル。
高校生、未来アル若者が学校のために犠牲になる。

そこまで、かける物は何なのか。
決して、学校のタメなどではなく。


自分の、過去に打ち勝つために。







NEXT
----------------------
本当は、デスゲームなんて、甘いものじゃないんだけど。