生徒会朧月夜 11
(それは、精一杯の助けを求める叫び声だ)
私達には何かがたらなかった。
穴がある。
四葉ヶ丘生徒会には穴があるんだ。
それが、私達の弱点。
「まぁ、梓が騙されてたんだ」
『騙されたてた?』
思わず玲稀の言葉に聖凛メンバーと椋が目を丸くし聞き返した。
「まぁ、簡単に言えば、中山は私の家の地位が欲しかった、そのために私に1番近い存在だった梓に近づいた、梓は中山の事が好きだった、」
「本当にアバウトに話したね、ソレ」
「そう、ただ、それだけの事、けどな…、アイツは辛かったんだ」
玲稀の声がやけに全員の耳に響く。
ソレは玲稀の声が軽くかわったため、ほんの少しだったが、悲しくなった為。
しかし次の瞬間、一拍おいて椋が口を開く。
「玲稀、」
「んだよ」
「だったら、行ってやんなきゃダメじゃん」
「「…は?」」
椋の意味の分からない言葉に気の抜けた声で返す玲稀と雪。そんな返答に椋が答えた。
「―、アイツ、1人にしちゃダメじゃん、アイツは強いけどそれは俺等と一緒だから、だろ?」
「……」
「それに」
「守ってやるって約束してんじゃねぇか、俺等」
「「――――」」
椋の言葉で思い出した。そうだ、守らなきゃいけないんだ、と。
「約束?」
準の質問に椋は答えた。
「あぁ、ヤクソク」
それはまだ、俺達が入学して間もない頃だった。
入学後スグに生徒会として就任させられた俺達は『朧月夜』のゲーム…つまり試合に出てた。
「――成宮!そっちいった!!」
「うぃーー、」
にぶい音と声にならない男の声が廃墟に響いた。
その音の招待は人間の骨が折れる音で、そんな音俺は聞きなれてた。(普段けんかとかむっさしてたし)
雪も玲稀も何気ない顔で、コマンダーの玲稀も適当に指示をしてくる。
けどそんな中でその骨の折れる音に1人震えていた奴がいた。
当時は俺も玲稀や雪、梓の事を苗字でよんでて…、特に玲稀は苦手な人間だった。
「いっちょ、あーがりー」
「…野村…?」
「―、ぁ、…、天宮さん、ご、ごめんねぇ…!」
「…骨の折れる音、結構頭に残るからな、大丈夫か?」
「…うん、ごめん。足手まといで…」
梓は、そう言いながら涙を必死にこらえて、下を見ていた。
俺は…そんな梓が痛々しく思えた。
何でか?
そんなのは決まってた。普通の女の子がこんな場面に対面して、ただで入れるはずがないから。
俺は自分は特殊だって事をしってた。雪や玲稀も知ってる。
目の前で人が死んでも何も思わない。
いや。残酷さはちょっとはあるけど。けど、俺は簡単に人を殴れるから。
「…足手まといなんかじゃねぇよ」
俺はそういいながら梓の手を取った。
「――、ぇ?」
「その内慣れんだろ?」
「…」
「それまで、俺等が守ってやっから、徐々にやっていきゃいいさ」
そう言って梓を起こした。
そして、確かめるように後ろで見てた2人に振り向きたずねる。
「いいよな?成宮?早瀬?」
「・・・問題ない」
「お姫様は王子様が守んだーもんネ」
「あぁ、やくそくだ」
「違えるつもりかよ?ヤクソク」
椋が玲稀と雪に聞いた。
「・・・ヤクソクは守る主義だ、」
「んじゃ、行く?」
「行っちゃいましょうか」
「あぁ」
そういった瞬間に玲稀たちは走り出す。
「うわ!おい…っ!!お前等!!待てー」
「んだよ、用事あるんだったらおっかけて言いに来い!戻ってらんねぇっつの!!」
「あー!!もう!!!、何なんだ!テメェら…っ!!」
「久しぶり、梓」
「うん、本当にダネ」
「梓・・・あのね?」
「何?」
「――、僕と付き合って欲しいんだ」
案の定思っていた通りの展開。
こうも何もないと本当につまらないよね。―、付き合う、か。
「どこに行けばいいの?」
「ははっ、とんでもない天然かまさないでよ」
笑顔で言う中山君。そして続けて口を開いた。
「僕の彼女、恋人になってくれない?」
「――…ねぇ、洋君?」
「ん?何?」
ニコっと笑う。
確かに彼の笑みは安心を生み出してもくれる笑みだ。
けど、いつからかこの笑みに悪寒のような物を感じるようになった。
悪寒…?いや。違う。それ以上のもの。
「相変わらず、虫唾の走るような偽善者笑顔だねぇ…、確か2年前もそうだったよね?」
「――っ、…梓、キミ…」
「あの頃の私とはもう違うんだよ、もうアンナめにあわないから、さ?」
その瞬間腕がつかまれる。
「―っ!なっ」
「ねぇ?梓?答えは?」
「…嫌だ、って言ってるでしょう…」
「そうかぁ、残念だなぁ…、」
両腕を頭の上で壁に押さえつけられる。
――…っ。
「…確かに梓は強くなったみたいだね、・・・でもさ、知ってる?自然の摂理。―、女はどんなに鍛えても男の力にはかなわないよ」
「特に、キミみたいなか弱い系の可愛い子はね」そうつけたし無理矢理口付けをされる。
うなぁ…っ!!ちょ、ちょっと想定外の自体だ…っ。
生理的に流れる涙に気付いて洋君はクスッ…と笑いながら一旦顔を離す。
「…、昔から思ってたよ、梓のそういう所、可愛ー」
そう洋君が言った時だった。ばしっ!とドアが開かれる。
さっき鍵をしめてたはずなのに…っ。
そうして入ってきた人物が口を開いた。
「――、中山・・・鍵、もうちょい丈夫なのにしなきゃこういう悪趣味なのに普通に入られるぜ」
「悪趣味だなんて、嫌だな、早瀬さん僕が親切に得意のピッキングを披露してあげたのに」
「―、…なんつーか何時もの事ながらもう、つっこめねぇ…」
「ってか、うおーぃ!!!何してんだ中山!テメェ!」
入ってきた瞬間イロイロと言ってる皆につい、笑みがこぼれた。
「――、ははっ…はは…っ、もう、何してるのよ玲稀ちゃんたちー…」
「…助けにきただよ」
「…助けに?」
「――、ヤクソクは守るさ」
ヤクソク…守る…、
―――。
あぁ、思い出した…、
『守る』
うわぁ…。そんなの…。
「そんなの…私だって忘れてたのに…」
「!何なんだ!お前等…!」
「ハロー、中山君」
「…っ」
「…あんな、中山?…俺等の姫君に手出したら、この先外歩けない面にしてやるぜ?」
椋ちゃんがニヤリと笑いながら言う。そして続けた。
「しってんだろう?俺が中学の頃30人人斬りを達成させた天才、だって事くらい」
「――ッ!く…っ」
案外あっけなく私を解放する洋君。
私は離れることなく洋君に言った。
「洋君…」
「…なんだい…」
「…私ね、あの頃は本当に洋クンの事好きだったよ」
「………」
「デモね、今はごめんなさい。…それは洋君のせいじゃないんだ、私は…気付いたんだ」
ニコっと、ほほえんだ。
「梓みたいな可愛い子が1人に定める、みたいな事したら他の男の子達が可哀相でしょ?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
その場の空気がいっきにぴきっ、っと固まる。
「?え?何かいった?私」
「―、あ、あのね?梓ちゃん?」
「なに?椋ちゃん?」
「――、なんつーか…」
「お前らしい、」
椋ちゃんの言葉の続きを遮って玲稀ちゃんが口をひらく。
その言葉に私は笑いながら言った。
「でしょ?」
「…あぁ、…おかえり」
「ただいまぁー」
玲稀ちゃんが微笑んで笑う。その瞬間聖凛が「あ…」と声を上げた。
「何だよ」
「―、お前笑えたんだな」
「――、は?何だその人を笑わないロボットみたいに言いやがって」
「…そうだったんじゃないの?」
「…貴様等なぁ…」
「え?結構、早瀬わらってるよね?」
突如口を開いたかと思えば恐ろしいことを言ってのける準君。
『ぇ?』
―そこだけは綺麗に全員かぶった。というかむしろ、中山君まで「ぇ?」っていっている。
うわぁぁあー。
「えぇ?!結構わらってるよな???早瀬」
「…い、いや、よくしらねぇけど」
「バッカ。コイツが笑ってるときは俺をいじめて楽しんでる時くらいだぜ・・・っ!」
「違うよ、拳銃うった瞬間だよ」
「え?煙草くわえてるときじゃね?あえて言うのなーら?
「失礼な奴だな、お前等」
「本当、酷い言われようじゃねーのよ?れーき?」
その瞬間聞いたことのない声が背後から聞こえてくる。
――玲稀ちゃんが一気に振り返った。
尋常じゃないくらいの速さで、玲稀ちゃんではありえないくらいの雰囲気で。
そして、その人物を確認したと同時に、大きく目を見開いてで言う。
「――――-。大樹…にぃ…様」
「――、よぅ…」
かなりの長身の人。
アレ、この人確か…、そう思った瞬間に洋君が立ち上がって頭を下げた。
「!は、早瀬様…っ!?今日はわざわざの出席ありがとうございますっ」
「あぁ、気にしないでくれ、コレも下見をかねての事だ。…というより、玲稀」
「…何故貴方がこんな所に…っ」
「何でって、仕事だ仕事。春もいるぜ、勿論…、親父もな」
「…っ!――、なんの用ですか」
玲稀ちゃんのいつもとは違った表情に聖凛だけじゃない、私達まで戸惑う。
すると、玲稀ちゃんが兄様といった人は玲稀ちゃんに近づいてくる。
「久しぶりだな、玲稀」
「・・・・・・・・」
「そう、睨むなって唯一無二の肉親だろ…、最後に会ったのは、確か13歳の時か?」
「・・・貴方は、アメリカに・・・いってましたから、ね・・・」
玲稀ちゃんの頭に手を置きながら話すお兄さん。
その時椋ちゃんが口を開いて言う。
「アー?何、この人玲稀の兄貴さんな訳?」
「お前は!?場の空気もデリカシーも頭の中身も本当に何もねぇな?!」
椋ちゃんの言葉に雪ちゃんが怒って足蹴りする。
「――ほぉー・・・、成宮の娘か」
「?どっかであっちゃいましたっけ?」
「…その金髪はよく覚えてるさ」
「…えー、すんまっせん、何処であいました?」
「…まぁ、10年前の事だ、無理もないさ」
「―へー…、10年前って俺いきてる?」
「テメェ、今何歳かいってみろ?あぁ?」
椋ちゃんの言葉に雪ちゃんが溜息をつきながら首絞めをかます。
「…おっと、話がずれたな、驚いたよ、アメリカから帰ってきたらお前が親父にたてついて出て行ったって春にきいてな」
「…だったら何ですか」
「否、確かに仕方ないさ、ただ意外だったからな…」
「…」
「お前がマタ友達とやらを作ったなんてな」
「…こいつ等はソンなんじゃありませんから」
「…へぇー、否定する所みてりゃまだ気にしてんだな?」
その言葉の瞬間、玲稀ちゃんの目が変わる。
「――、何が言いたいんですか」
「あー…悪い、そんな事いいにきたんじゃねーんだよ、親父、いるから会わないように気をつけろよ?」
「・・・・・・」
玲稀ちゃんが短い返事をする。
その瞬間部屋の中に大きな声が広がった。
「――!!玲稀ぃぃぃぃーーーーーー!!!」
「…っ!!!!」
走って入ってきた人は急に玲稀ちゃんに抱きついてぎゅーっと抱きしめた。
「…!春…っ兄さま…っ!!」
「会いたかったよー!!玲稀!!
俺はお前が家を出てからの4年と1ヶ月と5日、一度もお前の写真を見ながら溜息をつかなかった日はないぞ…っ!!」
「な、し、し…知りませんって、そんな事―…っ!!!」
「知らなくないぞー!!お兄ちゃんはすっごい心配した!!心配しすぎて何回かマンションの中はいった事もある…っ!!」
「何勝手にしてるんすか?!」
急にコミカルな方があらわれてその場の空気が一蹴にギャグじょうの物となった。
「とりあえず、玲稀ー…、元気そうでよかった…っ!!」
「兄様・・・こそ、全然かわってないようで・・・」
その会話の後に春、というお兄さんは急に聖凛をジロリと睨む。
「…なあ、何ですか…っ」
「お前等、もしかして・・・玲稀のヒモ!?!?」
「失礼なこといってんじゃねぇぞ!!テメェ…っ!!」
健君が流石に怒ったようで叫ぶ。
しかし、その後に続いて最初のお兄さんが口を開く。
「玲稀、もしこの中で男にするなら、神内か宮坂にしてくれよ、」
「えぇぇ!!な!!何でですか・・・っ!!」
その言葉に準君が声をあげる。
「神内の親父さんは代議士だ!宮坂は貿易関係の会社では国内1位の宮坂グループの時期社長、あぁ、問題ない」
「イロイロとありますから、問題」
そう、玲稀ちゃんがつっこんだ瞬間にお兄さんの携帯が鳴る。
「んだ?…いいところだったのに」
「イロイロとグットタイミングですよ。それは」
「まぁまぁ…」と言いながら電話に出るお兄さん。
「もしもし、俺だ…あー…?あぁ、了解。…すぐに戻る、あぁ、あぁ…じゃあ」
玲稀ちゃんのお兄さんらしい電話の対応。
完結で面倒臭そうだ。
電話をきったお兄さんは玲稀ちゃんに抱きついてたお兄さんに話しかける。
「親父の秘書だ、取引先のおっさんがきてるから来い、ってよ」
「マジかよぉ・・・なぁ、玲稀…?」
「何ですか、」
「一緒に帰って」
「いやです」
玲稀ちゃんの即答にはさすがにお兄さんは涙目になって「うぅ…っそうだよなぁ…」言っている。
「・・・んじゃあ、玲稀、またな」
「・・・・・・・・・」
「いつでもおにいちゃんに電話するんだぞぉ…!!!」
「早瀬さん、あの人たち…って」
暫くその場に沈黙が続いていた。
そんな中、拓クンが口を開いた。
「・・・兄貴だ」
「実の?」
「あぁ、ちなみに両方」
「・・・やっぱし早瀬って、あの早瀬だったんだぁ」
「まぁ、うすうす気付いてはいたがな」
そう、言う聖凛。
しかし、その言葉に玲稀ちゃんは吐き捨てるように言った。
「軽蔑するか?」
「――な…っ」
「それとも利用してやろうって気にでもなったか?」
「・・・」
「玲稀…っ!!」
雪ちゃんの珍しく荒々しい声が中山君の大きな部屋に響いた。
「んだよ、お前だって結局は思ってんだろ・・・っ!」
「思ってねぇよっ!」
「うっせぇんだよ、お前らに何がわかんだ…ほっとけ…!」
そういい残して走って部屋から出て行く玲稀ちゃん。
「ちょ!おい!玲稀…っ!!!」
「ちょっと!玲稀ちゃん…?!雪ちゃんどうし」
「ほっとけっ!あんな莫迦女…!」
近くにあったゴミ箱を蹴飛ばしながら言う雪ちゃん。
ここにもあった。―――、私達の知らない、
早瀬玲稀と成宮雪という人間の関係が。
早瀬玲稀と成宮雪。
この2人しかしらない2人は、私達にはとうていわからなくて、それが、
私達四葉ヶ丘生徒会の穴だった。
NEXT
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穴は塞ぐしかない。