生徒会朧月夜 02
          (それは、自分を殺した者たちへの裁き)







「…、ま、マジ…か、よー…」

「―――、こいつ、ら…!!!」

「………」

「だからなめてかからない方がいいって言ったのに…」


何でだ?いつからこんな状況になっちまってる。
今日の俺達の対戦相手の美女4人のうちの3人は、何の躊躇い(ためらい)もなく胸ポケットから銃を取り出し、やくざの男の頭を表情1つかえずに、ぶち抜きやふがった。





「色々と面倒だから今日はおとり捜査な」

「おとり捜査?」


玲稀の言葉に答えたのは梓だった。


「私が先に暴力団関係者と接触するから私をマークしとけ」

「おい、そんなんでいーのかよー?」


考えなしの玲稀の言葉に椋が確かめるように言った。
しかし、玲稀は煙草をふかしながら呟く。


「今更わめいたって死ぬ時には死ぬしな…、じゃ10時に現地集合」

「現地?いいの?そんなんで、ちゃんと集まって」

「面倒だろ?」

「…まぁ、確かに」


こんなんでコイツ等は、本当に勝つ気があるのか。
そう問われたら、この現場を見た者たちは返答に迷うだろう。
明らかに面倒臭そうで考えるのも作戦会議もしない。むしろさっさと帰りたいんだよ、な雰囲気が漂ってる。

そんな中1人元気に叫ぶ椋。


「っしゃー!!!!!!だったら俺はバスケで準備運動しとっくわー」

「じゃ、緊急事項は電話またはメールをするので必ずもっていくように、後、武器も忘れんなよ、雪・梓」

「はーい」

「ういー」


玲稀の『武器』の言葉に梓はハートマークを飛ばしながら、雪は音符を飛ばしながら了解の意を込めて言う。
そして、玲稀が口を開きながら言った。


「じゃあ、解散」






天龍組

そうかかれた大きな門構えの家。
ぴりぴりとした空気が流れている家の雰囲気。
あきらかに暴力団関係の家だということが分かる。そこに入っていく赤毛で長身の女がいた。

そう、天宮椋だ。椋はここの5代目の孫娘。
両親は2年前死に、それからは唯一の身寄りだった祖父にひきとられたのだった。


「ただいま戻りましたー」

「椋嬢、おかえりなさいませ」


頭を下げ挨拶をしてくるスーツ姿の男に椋は臆することなく言う。


「ただいまー、じーさんはー?」

「5代目様は奥の自室で」

「じーさんもよくあんな落ち着かねー部屋で寛げんなー、んじゃ、ちょっち行ってくるー、じーさん1人?」

「いえ、郁様がいらっしゃります」


郁。その名前があがった瞬間に椋はあからさまに表情を崩した。
―、そして、あー…と呟きながら言う。


「……、そっか、挨拶行かなくっていーかなー」

「帰宅しました主のところへ行きますのは天宮家の伝統でー」

「はいはいはい!!わかりましたって。了解です」


嫌々ながらも、うざい家臣の言葉に椋は黒龍のフスマの所までのっそり歩いていく。
フスマの前で一呼吸する。目を瞑って、来る相手にそなえる、と言った感じか。


「失礼しまーす、じーさん」

「おぉ、帰ったのか椋」

「ただいま帰宅しましたがすぐに生徒会の用事で、外出しまーす」


フスマを丁寧にあけ、中にいた和服姿の老人にそう話かける椋。
同時に老人のとなりにいた32.3歳くらいの女にもニコッと笑いながら頭を下げる。


「そうか、四葉女子の生徒会も大変だな」

「まぁ、では失礼しまーす」

「あぁ、気をつけるんだぞ」

「はい、では…お邪魔しました」


お邪魔しましたの所だけをえらく強調させて言う椋。
そしてその言葉を言い切ったときに軽く無意識に『郁様』と呼ばれていた女を睨んでしまっている。そして、睨まれた郁という女は椋の事を見据えたように笑う。

―――、
フスマを閉め、自室への足を急がせる椋。


「…ち…、胸糞わりぃ…っ、」


はき捨てるように、悲しく哀れに…そして虚しく呟いた。





「うっわ、もうこんな時間!!やべぇ!!!玲稀にしめられんじゃねぇの?!俺!」


あの後椋はすぐに家をでてきて、ゲームセンターで時間をつぶしていた。
しかし、時計を見ると時はすでに10時02分をさしている。集合時間は10時ジャスト。
ここから六本木のバーまで、少なくても15分。


絶望的と言う文字が流れる中、椋は1人プラス思考に、プラス思考に…と自分に言い聞かせその場で叫んだ。


「こりゃバスケ部エースの足と持久力の見せ所じゃねぇか…!」


そう言いながら全力疾走で走り出す。
椋は気付かなかった。鳴り響く携帯のバイブ音に。





もう、集合時間を過ぎたというのに現れない椋。
いつもの事ながらあきれ返える玲稀、雪、梓。
さっきからずっと鳴らしている携帯も相手は出ない。玲稀のイライラはつもる一方だった。


「ちっ…!全然でねぇ!何してんだあのバカ!!」

「ちょ!玲ちゃんおちついて!!らしくないって!」

「あのバカのことだから絶対にくだんない事おっぱじめてくれんだろーねぇ〜」


はははー…と笑いながら言う雪に玲稀が睨みながら言う。


「笑い事かバカ」

「全く〜、会長様は椋の事となったら随分とご心配なさるのですね〜」


その雪の言葉に梓も…、「あー…」と言いながら言う。


「たしかに、玲稀ちゃん何でそんなに椋ちゃんのこと心配してるの?」


その梓の質問に玲稀はさらりと答えた。


「そりゃ、あいつ疫病神だしよ…」

「「あぁ、なるほどね」」


なぜか納得してしまう自分達がいた。その為梓たちもさらりと肯定した。
玲稀が溜息交じりで呟いた。


「…、ち、仕方ねぇな…、梓、雪先に店ん中入ってるぞ…、中に椋がいる事を願う」

「うんっ そうだね」

「んじゃ賭けるか?」

「?何を?」

「椋が店ん中にいるかいないかー」


雪の提案に、乗ったのか乗らなかったのかは謎だが、玲稀が最初に口を開く。


「…いないに諭吉1枚」

「私5枚でもいーよー」

「んじゃ私もーいないにー諭吉様を……おい、それって、」

「「「かけにならんし・・・」」」


無情にも3人の声は風に流され3人以外の耳には届くことはない。
その頃椋は…、

「はっくしゅ…!な、なんだ何だ、誰が色男の噂してやんだ…、ってか10分過ぎたっ!」

爆走中であった。







バー・Z.Y

「あの子かわいー、後で声、かけとこー」

「健、女は後だ 先にコレが四葉ヶ丘の生徒会の3人の顔写真」


女の子の顔をみて、気に入った子がいたのか。
そう言っている健に純利が溜息混じりに言い写真を見せた。3枚、と言われて拓が疑問を抱いた。


「?3人?って何で?純利ちゃんと調べたの?このゲームは4人から参加可能なゲームだよ?」

「…っつーか、俺、この茶髪のロングの子好みー」

「僕はもうちょい王道でこの黒髪のウエーブかかってる可愛い系の子かなー」

「そんなこといってんじゃねぇんだぞ、健、拓…」


ひらりと見せられた写真3枚に写っている女に「この子タイプ」等と高校生らしい会話を並べているオレンジ頭の朝倉健とおとなしい感じの宮坂拓。それにいつも通り生徒会長の純利が突っ込みを入れた。
それを見ながらまるで女のような顔の準が写真を見ながら言う。


「別に、そこまでいうほど可愛くねぇじゃんっ!」


その準の声に健が「はっはーん…」と言いながら続ける。


「なーにー?私のほうが可愛いわよー?ってか可愛いねー、準ちゃーん」

「お!お前マジでぶっ殺すぞっ!」

「あっそー、やれるもんならやってみなー」

「テメェ…!」

「はいはい、けんかはやめろ?…で?もう1人は?」


拓の一言で喧嘩も止まる。正に泣く子も黙る大魔王拓様だ。
拓の質問に純利が答えた。


「それが、後は男の写真しかなかったんだ」

「四葉女子って女子高だろ?」

「あぁ、でも身長は178cm、髪の毛は短くて服装も男ものしか着てないらしい」

「じゃ、それは教師とかってこと?」

「おそらくな」

「へー…」


そぅ、拓が意味ありげに言う。そして、次の瞬間準が口を開きながら立ちあがる。


「俺、ジュースとってくる」

「俺もアイスコーヒー頼むわ」

「了ー解ッ」


そういってカウンターの椅子から『ピョン』と効果音つきで、飛び降りてグラスを2つ持ってドリンクバーへと歩いていく準。
その後姿に誰もの意見がかぶった。


「「「(うっわ…女みてぇ…)」」」





「椋様とうちゃっくっ!やったぜ俺!さすが18分でたどり着いた!!!!」


そうバーの入り口で叫んでいる女は天宮椋。
といっても今の服装は男物のジーパンとパーカーを組み合わせているのでまるっきし男。
本人も可愛い女の子をナンパできるのでそこ格好が気に入っているらしい。
暗いバーの中でも赤の髪は一際目立っている。

女の子達に目をやりつつも玲稀たちを探す椋は、そんな中でドリンクバーで美少女を発見してしまった。


「…や、やべぇ…、何あの子むっさカワイイっ!!!」





「椋、おせぇ…、マジかよ…」

「でも、椋ちゃんが連絡なしで15分以上遅れてくるなんて珍しいよねぇ…」

「…はー、玲稀ー煙草ー」

「お前まだ買ってないのかよ?」

「だって買うタイミング無かったしー。仕方なくねぇ?パスー」

「しょうがねぇな」

「もぅ!2人ともだめじゃん!そんなことばっかして!」


相変わらずヘビースモーカーの玲稀と雪にあきれながらも梓が言う。
さすが梓だ。何気に一番の常識人なのかもしれない。
そして、玲稀は雪にタバコを渡すと立ち上がってさっきからマークしている男達をかるく見た。


「…?あいつら?」

「情報によれば」

「どっからの情報よ、お前は闇の王か?大魔王か何かか?」

「…あの茶色のスーツの男が親玉だ」

「流すな。…へー、いかにもって感じのおじさんだね」

「良い煙草すってはるわー、ケンタッキーバードだって。パイプ煙草きまってるー」

「そうゆう観察はいらないのっ!」


カウンター越しに自然に見る雪と梓。


「椋のやつはもう今日は捨てようぜ、いらねぇ」

「…仕方ないんじゃないかな?この場合」

「遅れてくるのが悪いっしょー」


もう、捨てると言う玲稀の発言に誰も椋のカバーに回る人物はいなかった。(元々いないが。)
そして、玲稀が写真を見せる。


「後、これが今日の対戦相手の写真」

「うわ!みんなイケメンさんだぁ!!!」


金持ちの御曹司でコレくらいの容姿の持ち主。あー…色々と激戦なんだろうなー、と梓が呟く。
すると、雪が1枚写真を手にとって指を刺しながら呟く。


「何かさー…、この子女の子みたいじゃーない?」


その写真に写っているのは勿論、準。


「椋の好みそうだわー・・」

「………まさか、」

「……まさか、ねぇ・・」


3人の心が一瞬にして一致した。


「…とりあえず、作戦実行する」

「「・・了、解」」



3人の中にある不安は、これからの不安でなく椋のいらない心配だけであった。





天宮邸

「んっ…、おじ…さま」

「ふふっ、どうした」

「…椋、最近好き勝手しすぎではない、です、か…!」

「………」


体を重ねているのは郁と椋の祖父。…憎しみのこもった瞳で郁が祖父に聞く。
それに対し、さっきのような椋への暖かい瞳はどこにもなく、冷たく冷酷こもった瞳で郁の質問に答えた。


「何、羽がはえた蝶は飛ばしておけばいい、所詮一週間の命だからな、」




人は生まれたときから宿命を背負い、全てが決まっていると言う。

だったら、神様、私は貴方を憎みます。
なんで、普通の家に、普通の家庭に生まれさせてくれなかったのか、と。
なぜ、私達の大切なものばかりを、奪うのかと。


生えたばかりで、まだ未成熟な、羽がもがれる。
それは自然の脅威によってじゃなく、残酷な人間の手によってだった。







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私が聞きたいことはただ一つ。『神様は私が嫌いなのですか?』