生徒会朧月夜 03
          (それは、悲しい過去が繰り出す戯曲)








父さんと母さんは達也が死んでから私を殴るようになった。
・・・達也というのは私の弟。
2人兄弟の私と達也、・・・つまり、唯一の男であり、ソノ上頭脳明晰、運動神経も俺なんかよりもよくて・・・、本当によく出来てる人間だった。

・・・・・・だから将来天龍組の有望な跡取りだったんだ。


ある日、達也が事故にあい急死した、父さんも母さんも酷く悲しんでいた。そして、いつも呟くのだった。

「…達也じゃなくって、アンタが死ねばよかったのに…、」

当然の言葉だ。
だから反抗もしなかった。だから無抵抗で、殴られ続けた。
それで、父さんと母さんの気がまぎれるんだったら。

たとえ私が死ぬことがあろうとも、いいと思った。私がどんなに男ぶっても結局は女だから、達也の代わりにはならないから、

でも、悲劇は突然起こった。いつもとはどこか違う感じの夜。
ただ違うことは、月がえらく赤く…、なのに、雨がふってた。天気雨の奥に見えるのは、真っ赤太陽じゃなくて、…





勉強嫌いだし行きたくないし・・・でも父さん達に言われたから仕方なく行っていた。
そんな塾からの帰り。
時刻はすでに10時を回っていて、腹へったなー・・・とか考えてた。
いつもの事ながらうちの家の前は張り詰められた感があって、ぴりぴりした空気がする。

けど、そんな中である違和感を覚えた。

何でか手が動かない・・・、
やっとの思いで恐る恐る腕を引いて扉を開ける。その次の瞬間に目に映った光景に己の眼(まなこ)を疑った。


「―っ!父さん!母さん!!!」


・・・皆死んだ。
俺だけ生き残ったじゃん・・・、何で・・・私だけ?どうせなら私もつれてってよ。

声が枯れるまで叫び続けた。呼び続けた。
・・・・・・世界一大好きだった人達の名前。いくら呼んでも冷たくなったその人たちの身体からは声も大好きだった暖かさもなくって・・・。

絶望。とい言葉の意味が初めて理解出来た。



あー・・・、私イマ1人ぼっちだ。





「君可愛いネ、名前なんていうのー?」


可愛らしい女の子を見つけたらとりあえず声をかけて携帯番号をゲットするべし。
そんな意味をこめて声をかける天宮椋。


「あ?」

何時も女に間違われる、その度にカチンときて睨みをきかせボーイソプラノの綺麗な声で機嫌悪く言う、城条準。

「「・・・・・・・」」


・・・インスピレーションで2人は黙り込みお互いをキョトンと見た。






「玲稀もやくざさんも動く気配なしかぁーい?」

「本当だァ・・・、何かつまんないやぁ〜」


玲稀が先ほどおとり捜査と本当に簡単に説明して薬の取引現場の近くにさりげなく近づいている。そこの位置は雪と梓からちゃんと見えるようになっていて、玲稀からの合図を面倒くさそうに待っている2人。
玲稀からの合図が、今だ無い雰囲気のに飽きを覚え2人は、カウンターに顔を伏せている。


「・・・随分ほのぼのしてるじゃねぇの?…お嬢さん方」


そんな中で声をかけられた。
オレンジ色の髪の男の子、歳は恐らく自分達と同じくらいだろう・・・、そうなったら完璧に今日の対戦相手。
・・・というかさっきの写真の中にいたっけな、こんな顔。と雪が心の中で思い出していると、梓はパァっと明るくなり声を上げる。

世間一般ではコレは『出会えて嬉しい』と取るのに対し、雪に限ってはこの梓の行動を『新しいおもちゃを見つけた女の子』と考えた。
そんな事怖くていえないかー、と心の中で呟くそんな中梓が口を開く。


「はじめまして!四葉ヶ丘の企画・書記担当の野村梓って言いますっ!」

「…は?」

「こちらこそ、はじめまして、聖凛会計の宮坂拓です、宜しく」

「お、ノリがいーにぃさんだ」

「おい」


普通に自己紹介しだす2人と、それを見て感心しながら玲稀からパクったと思われる煙草に火をつける雪。
それに、オレンジ頭とその長身が特徴的な健が冷静につっこんだ。
そりゃそうだろう、これから殺し合いをする奴等が丁寧に自己紹介しあっているんだ。

そのつっこみに対し雪が、あー・・・と何かに気付いたらしく口を開く。


「私は会計の成宮雪ね、よろしゅー」

そうでもねぇ


やっと理解してくれた奴がいたか、と安心した健に自己紹介をして綺麗につっこまれた雪。
「ぇ、違うの?」と雪が言うと「ちげぇよ」と返した、そんな中拓が口を開く。


「健どうしたの?健も自己紹介しなきゃ、ってかしろ?

「はじめまして、朝倉健です、よろしくお願いします。」


拓の言葉に、若干脅えつつ、丁寧に丁寧にちゃんと自己紹介をした健。
それをみて雪は、おお・・・、コイツが聖凛の梓か・・・と考えていると健が「じゃなくて・・・」と言いながら続ける。


「・・・俺ら敵同士だぜ?」


そんな健の素朴な疑問に拓が爽やかに返した。


「そんなの知ってるよ。でも名乗ってくれたんだから名乗り返さなきゃね?そんな常識も無いのかテメェ?って感じだけど」

「・・・・常識、は、あ・・・ります・・・っ、(ってか黒?!)」


あまりに綺麗な笑顔で腹黒いことを言われて引き気味で(恐れ気味とも言う)健。
そんな2人の漫才に終止符を打ったのは雪だった。


「・・・で?何の御用ですかねー?」


率直な言葉に、拓が表情を和らげたままで言うしかし軽く声は変わった。


「・・・簡単なこと、そっちのコマンダーは?」


雪は煙草を、フー・・・、っとふかしながら答える。


「大将になんか用かいー?」

「・・・、コマンダーさんにも挨拶しようと思ってね」


その答えに「なんだよ挨拶かよ」と呟き、雪は梓の方を見る。


「だってー、どうすーる?あーちゃん」

「んー、教えちゃえば?私たち関係ないじゃんー?」

「おいおい、お前らの大将だろ?」


カンケイナイ。その言葉に健が聞き返す。
朧月夜はコマンダーを倒したチームはどんな戦闘内容であろうと勝利。これが絶対ルール。
そのコマンダーの大将の居場所を聞かれたんだ、明らかに自分達の大将が狙われていると言う証拠だ。
なのにあっさり答え、しかも、『関係ない』という2人に健は疑問を抱いたからだった。

しかし、その問いに、雪、梓はニコニコ(ニヤニヤ)で返した。


「「大将だけど、私たちって仲間じゃねー(しょ?)(のです)」」

「「…は?」」

「お・・・」

その言葉に思わず2人は気の抜けた声を出す。
健が何かいおうと口を開いた瞬間だった。

静かな店内に大声が響きわたる。


「んだとこら!!!!!」

「あぁ?!お前な!紛らわしいんだよ!!!」

「勝手に間違えてきたんだろ!!!」

「男ナンパしたなんて一生の不覚じゃねぇか!!」

「お前こそ紛らわしいんだよ!女なら女らしくしやがれ!!」

「うっせぇ!ほっときやがれや!!」


「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、」」」」


突如聞こえてきた大きな声。
・・・その聞き覚えのある声に、拓と健/雪と梓は静まり返る。

そして、最初に平常心を取り戻した雪が叫ぶ。


「あんのバカ娘!!!!!」

「もう!!!!椋ちゃん1回殺した方がいいって!!!」


急に物騒なことを言いだした2人。しかもかなり機嫌も悪くなった。
そして、走り出した2人に健が言う。


「!!は!ちょ!!待てって!お前ら!!」

「どうやら彼女達のお仲間もいらっしゃられるようだね〜…」

「!拓なに呑気に!!」


ははは、と笑いながら言う拓に健が叫ぶ。しかし、拓の表情が真剣な者となり静まった。


「…健」

「んあ?」

「…、あんまりあの子たちなめてかからないほうがいいかも、…ね」


「・・・・・・・わーってるよ…」





「―――、」

「随分と安いじゃねーか」

「新種なんだとよ」

「後の依存症とか、副作用とか・・・すげーんじゃねーのか?これ」

「若いもんはかまわず使うさ」

「・・・(若い者むけの新種か、ったく面倒な対戦方法ぶつけてきやがって・・・)」


玲稀は取引の始まった男達の裏側のカウンターで煙草を吸っている。…、しかし次の瞬間声が。


「んだとこら!!!!!」

「あぁ?!お前な!紛らわしいんだよ!!!」

「勝手に間違えてきたんだろ!!!」

「男ナンパしたなんて一生の不覚じゃねぇか!!」

「お前こそ紛らわしいんだよ!女なら女らしくしやがれ!!」

「うっせぇ!ほっときやがれや!!」


「…!この声…っ!椋?!…あのバカ何やってんだ」


そう呟き2階のカウンターから1階の声の方を見る。
そして、椋と言い合っている少年の顔を見て目を見開いた。


「…!…あの男っ!!!!」


聖凛男子高等学校生徒会書記兼企画…、『城条準』だ…。
写真の男。物覚えのいい玲稀はすぐに気付く。
そして、その男と言い合っている男のような女は、自分の束ねる学園の副会長【天宮椋】だと言う事には声を聞いただけで分かった。

そして、気をとられていた。背後に近づく男達に気付いた頃には遅かった。


「――(しまった…!!!!)…ッ!!!」


背後から腕を抑えられる形になって手すりに押さえつけられた。

チャキ…、

鉛が背中に突きつけられたのが分かる。


「…さっきからえらい気にしてくれてたじゃねーの?嬢ちゃん…?」

「気付いてっ」

「あんま大人なめんなよ、何の差し金だ」

「せーとかい朧月夜本部・・・?」


何の差し金だ。と聞かれたらソレしかない。
玲稀自身もしたくてしてるんじゃない。その答えに眉間に皺を寄せて男は口を開いた。


「強がってられんのも今のうちだ。何突きつけられてんのか分かんだろ」

「・・・・・・、打てば?」

「!なっ!!!」


玲稀の諦めたような言葉に男達が目を見開く。
しかし、玲稀の目は本気だ。


「テメェ女だからってー」

「――玲稀っ!!!」

「あ……ば!!バカ!!椋、テメェくんな!!!


男の言葉をさえぎりながらハイって来た声。

…椋の声。
声のほうを見ると椋が走ってやってくる。

明らかに何の考えもなしに。


「ー…あー。バカだー…、」

「雪ちゃーんに賛成ー」


雪と梓がとめる間もなく玲稀の所へ走っていった椋をみて呟いた。


「!おい!いいのかよ!!」

「や、いい訳ないけどー…、とりあえず、私たちの意見より大将様の考えの方がだいぶ上ですから」

「IQ250にはかなわないでしょー?何したって」


IQ250・・・と言う言葉に目を見開いた健。


「…、に、250…?…っ…」

「だ、だって、純利だって200しかないのに・・・!」

「準、ソコは問題じゃないんじゃないかな、この場合」

「んー。でもーこの場合さー…きっと、」


雪が呟いた瞬間玲稀が口を開いた。


「・・・テメェ役立たずの莫迦野郎がァ・・・!!!身代わりになりやがれ!!!

・・・へ?

「「「え?」」」

「「やっぱし」」


玲稀の声がマジ声になる。
玲稀の声に目を丸くしながらなんとも言えない声を出した聖凛の3人。
アー。やっぱなー。と言った感じの雪と梓の声。

そして、玲稀は2階席の手すりの近くで、椋の腕を掴み、自分のいた位置に椋を置き、素早く飛び降りる


「っしゃ…」

「ナイス着地〜」

「拍手はいらねーさ」

「はっははー、キャラちげー」


ほのぼのムードの3人に椋の声が上から降ってきた。


「っておい!!!!なんで俺こんな状況なんだよ?!?!」


その声にあぁ?と玲稀・雪・梓は呟き、順序良く答える。


「は?」

「遅刻したのは、」

「どこのどいつやねん?」

「!!!雪口調ちげぇぞ!!!何で関西弁なんだよ!!!」

「ずべこべ言ーわなーいのー」




これが、IQ250の出した結論だ。
男達はとりあえず人質として椋の頭に銃をつきつける。
・・しかし何よりも何よりも、それを見て目が点・・・となっている、聖凛サイド。

そこに生徒会長、神内純利の姿が現れた。


「…ッ!なんの騒ぎだ!お前らッ!!!」

「純利ちゃーんー、俺らもよーくわかんねーんよー」


半分泣くような思いで健が純利を見る。
純利は冷静に口を開く。


「ちゃんつけはやめろ。というか女はあとだとー……なんで敵チームと接触してんだ、テメェら」

「…うっわー…じ、純利とりあえず、お、落ち着け…?」

「はは、純利がきれるなんて珍しいよね」

「拓!何笑ってんだよ!!」

「はははー、でもさー」


なにやら、楽し気なムードの聖凛に雪が口を開いた。そして、それに続いて梓喋りだす。


「お。お宅らの大将はその銀髪のおにーさん?」

「どうも、写真よりかっこいーかも!!私は四葉ヶ丘の企画書記の野村梓です、宜しくよろしくお願いしますね!」

「どーもー、会計の成宮でーす、ほーい、次かいちょー」

「あ?・・・生徒会長の早瀬だ」

「・・・、聖凛会長の神内純利・・・、」


とりあえず自己紹介の流れだったので、不思議(不審)に思いながらも純利は自己紹介をする。
その時、忘れてた人物達が大声で叫ぶ。


「「「テメェら俺らを無視すんなッ!!!!!!」」」



麻薬密売犯と椋の言葉がかぶった。
すると、梓が真っ先にニッコリと言う効果音を乗せて、口を開く。


「何ホザイテルノヨー?椋ちゃん?やくざさん?」

「!な!!!梓テメ!」

「こっちには人質がいんだぞッ!!!!」

「・・・じゃーさっさと殺っちゃってくださいよー、おっさーん」

「!!は?!何!!」

「そうそう、そいつのせいで今日の私たちの計画は最悪に狂ったわけね?」

「!!な!!おい!!!」

「大体試合の日に遅刻するってどーゆ事だ?あ?」

「う!!!でもっ!!」

「いい訳なんて見苦しいでしょ?椋ちゃん?」

「!!!テメェら何言ってやがんだよ!!!!ナカマじゃねーのかよ!!」


4人の会話に見かねた健が声を荒げる。
しかし、それに玲稀たちは平然と言ってのけた。


「仲間・・・?やめてよ」

「「あんなバカ」」


梓が言うと、玲稀と雪の声があわせてる訳でも無いのに同時に同じ言葉を出す。


「だからおい!!!!!!」

「「「?んだよ?(なによ?)」」」

「んだよじゃねぇって!!何で?!俺はあれだよな?玲稀!!お前を助けに」


椋は今の自分の扱いに訳が分からなかったのかそう叫ぶ。
すると玲稀が「・・・あー・・・?」と気抜けた声で言うと椋に向かっていう。


誰が頼んだ?

「・・・・て、テメェ・・・・」

「お、おい、それ所じゃ、ね、ねぇっしょ?」


不意に口を開く男は、城条準。さっきまで椋と喧嘩をしていた男。
玲稀をはじめとする雪・梓・椋が準を向見る。


「?何が?」


雪が聞く。


「…な、何がじゃなくって・・・助けねー…のかよ?」

「「「面倒くさっ・・・」」」

「おいってば!!!私今頭にチャカつきつけられてんだぜ?!肉弾戦しかできない奴にどうしろっつーんだよ!!!」


椋も堪忍袋の緒が切れたらしい。
そう叫ぶと、「うっわ、うざ」と軽く呟いてから梓が言う。


「あーあー、これだからバカって嫌いなんだよねー、ねぇ?2人とも?」

「あずの意見あってるー…、面倒くさー、1回逝ってきたら?

「かえってこれねぇよ!!!!」

「・・・んじゃ、何とか生き残れよ


チャキ…、


玲稀の言葉とともに、玲稀、梓、雪の3人が胸の中ポケットから何かを取り出して、椋めがけて向ける。

椋=暴力団

本来ならば、この場合椋を助けている図にみえるのだろう。
なのだが、狙っているのは…、なぜだかとっても椋に見える…。


「!!何する気だ?!あいつら!!」

「!!な!ナカマに…!?!?」

「…なかなかやる、ね・・・、彼女達、純利何か知ってるの?」

「・・・・、このゲームで・・・、今現在トップにたってるチームがいる・・・、」


そんな拓の言葉にゆっくりと純利が口を開く。


「?トップ?うちのこと?負けたことないし」


聖凛は確かに今まで全勝。
圧倒的な強さで残ってきた。しかし、それは四葉の玲稀たちも一緒の事。


「・・・彼女達…?」


拓が聞いた。


「…あいつらと俺らが今の時点では一緒の2位・・・、1位は名前も学校名も出てきていない、匿名希望。」

匿名希望?!?!そんなんが、ありなのかよ?!このゲーム?!」


急に純利から出たコミカルな言葉に健が突っ込んだ。
「匿名希望とはどういう事なんだ」と聞く健に純利が答える。


「そりゃー、・・・学校によっちゃ偉い権力あるとこもあるし、なー」

「つっか、俺ら2位なんか?つっか2位が2校もいんのかよ」

「健、『2』の文字多くてなんだかとってもうざいよ」

「人の揚げ足とんなよ・・・、」

「あいつらはー・・・・・」


純利が何かを言いかけた時だった。
純利を含め聖凛サイドの言葉が消える。

・・・玲稀たちは、


「…、ま、マジ…か、よー…」

「―――、こいつ、ら…!!!」

「・・・・・・・・」

「だからなめてかからない方がいいって言ったのに…」


玲稀たちは、何のためらいもなく、胸ポケットから銃を取り出し、
やくざの男の頭を表情1つかえずに、ぶち抜いた。





でも、悲劇は突然起こった。
いつもとはどこか違う感じの夜。
ただ違うことは、月がえらく赤く…、なのに、雨がふってた。

天気雨の奥にみえるのは、真っ赤太陽じゃなくて、…


血に染まった月だった。
よってだった。







NEXT
----------------------
悲劇?喜劇の間違いでしょ?