生徒会朧月夜 09
          (それは、私の存在理由)






勇気がなかったんだ。

怖くて心の奥のどこかでおびえてる。
「好き」といわれても、また後にまってるかも知れない【裏切り】に――…。






「明日の夜うちの家でパーティーがあるんだ、もし良かったら会えたのも何かの縁だしこない?」

「あー、パーティー?面倒くせー、堅苦しいの苦手だっつの」

「どうする?玲稀」

「梓、どうした?」

「―・・・な、んでも、な、ないよ?」


梓の苦笑に玲稀も雪も椋も、スグに感じ取った。
―そういう事、か・・・と。


「あぁ、是非行かせてもらう」

「はっ!ちょ、玲・・・っ」

「あたしもー、賛成ー、いきたいわー、久々にパーテェー」

「パーテェー・・・って、ばばぁかい、お前は、でも、お前らがそういうなら、梓もな」

「う、うん・・・」


いつも可愛い笑みで四葉の雰囲気を一気に和らげる梓のこの笑みに、誰もが、何かを感じ取った。
そして、同時に、胸が痛んだ。

梓がこんな状況になったのはついさっきの事。
偶然にも街であった、この男のせいだった。






「―――アレ、梓?と早瀬さんと天宮じゃない…?」

「―――っ、よ、よう…君…」

「ぁ?誰・・・?」


急に話かけてきた男は名門高校の【一条寺】の制服を着ていて、髪も黒。
優等生としか思い浮かばせないその雰囲気とは裏腹、中性的な整った顔立ちをしていた。

その声の主の顔を見た瞬間、梓の顔と声が一気にこわばり、鞄をその場に落とす。

不可解な梓の行動に、雪、椋もそれぞれ顔を見合す。
雪が玲稀に耳打ちしながら、たずねた。


「中山銀行の御曹司じゃん」

「あぁ、みたいだな」

「知り合いなん?」

「嘘、俺しらねぇよ、誰?」

「莫迦、中学の時いただろ。確か、梓と1ヶ月位付き合ってただろ」

「あぁ、一時期噂になってー…」

「久しぶり、梓」


ありえない位に微笑んでるその表情からは感じ取れないくらいの裏に秘めた物。
この男は危険だ。

家の為にならなんだってするから、
人を騙す事さえも、なんのためらいもなく、やってのけるから。


「ひ、久しぶりっ!元気だった?洋君」

「勿論だよ、梓こそ元気?」

「元気だよっ!私はバリバリねっ」

「そうか、良かった、そこの金髪の彼女は初めまして、だよね?」

「ほーい、成宮の雪でーっす、以後宜しくー、」

「【中山 洋】です、宜しく」
















「あぁ、そうだそうだ、明日の夜うちの家でパーティーがあるんだ、もし良かったら会えたのも何かの縁だしこない?」


爽やかに言い切りながら封筒を綺麗に4枚渡した。中山。
それを、見て椋が言う。


「あー、パーティー・・・面倒くせー、堅苦しいの苦手だっつの」


しかし、椋の意見なんかこの四葉の中で通るるわけもなく、雪が玲稀にたずねる。


「どうする?玲稀」


たずねられた玲稀だったが、梓に声をかけようと手で「わりぃ」と示すように雪に向かって手をあげる。
そして、梓に尋ねる。

「梓、どうした」

「――・・・な、んでも、な、ないよ?」



梓の苦笑に玲稀も雪も椋も、スグに感じ取った。
―そういう事、かと。

椋は当然断るだろうと思ったが、玲稀は軽く溜息をつきながら答える。


「あぁ、是非行かせてもらう」

「はっ!ちょ、玲っ」

「あたしもー、賛成ー、いきたいわー、久々にパーテェー」


「てぇー」とばあさん口調で雪も続けて賛同。


「パーテェー・・・って、ばばぁかい、お前は、でもお前らがそういうなら、梓もな」

「う、うん・・・」


椋も雪と玲稀の言うことには逆らえない。
堅苦しいところが苦手な椋は、しぶしぶながらも梓に尋ねる。


「そうか、良かった、特に梓っ、お前とは色々沢山したい話もあるしねっ、楽しみだよ」

「んじゃ、明日な、私達こっちだし」

「あー、うん。仲良く帰れよ」

「テメェも梓をちゃんとエスコートしなさーいよ、こっちはセブンスター様さえいらしたら仲良く殺ってるんですよ?」

「感じが違う気がしなくもないが、まぁ、んな所だ、気にせず行け、中山もサンキューな」

「いえいえ、どういたしまして。じゃ、ボクもこれから塾だから、バイバイ、梓」

「う、ん・・・」


ニコリと無理をしながら笑う梓に玲稀も「はぁ…」と溜息をつく反面、過去の罪悪感を思い出した。

ぎゅ・・・っ、っと手を握り締めて手を帰宅コースへと進んだ。






「さて、と・・・、第一段階は終了かな。梓」






マンションの10階。

景色的にはそこらへんの地域全体を一望できかなり綺麗だ。
これが夜景ともくると綺麗としか言いようがない。
一つ一つ宝石が散り撒かれたように夜の闇に咲き誇る。
ベランダで1人で吸ういっぷくはそれはもう格別でうまく、それが夜の日課だった。

隣にこの女が来るまでは。


「あっれ、玲稀珍しいじゃーんよ」

「お前こそな」

「何、機嫌悪いんじゃねぇの?」

「別に」


その女は隣のベランダに座り込んで煙草に火をつけだした。


「別にって、・・・さっきの男、中山銀行の御曹司。アイツと梓って昔なんかあったわーけ?」


雪が質問してくる。
この女は私が高1になった時に引っ越してきた。
私は中2からずっと1人でここに住んでいる。


「昔つきあってた、1ヶ月くらい」

「それならさっきも聞いたかんね、玲稀ちゃんよ、私が聞いてんのは「何があったのか」ってこーとよ?」

「私も詳しくはわかんねぇ、ただ・・・中山の奴・・・早瀬の権力が、ほしかったんだ」

「あ?」


雪は頭に疑問符を浮かべながら聞き返してくる。


「あんね、玲稀ちゃん、そんな―」

「中学ん時私は一切周りとか関わらなかったからな」

「うわ、今以上に寂しい学園生活じゃなーいですかぃ、おねーさーん」

「五月蝿い」


ピンと張り詰められてた糸が緩まる。
これが、成宮雪という人物だった。

何か問題があってもコイツの一言でその場の空気が和らぐ。
私には出来ない。

コイツしか出来ないこと。


「唯一・・・必要最低限関わるのは、副会長の梓位だった」

「あぁ、道理で・・・梓に聞けばあんたの事大抵しってるわーけや」

「でも、そこに付け入られたんだよ・・・、中山に」

「・・・早瀬の令嬢様々なんかそうお目にかかれるものでもないし、な」

「―――・・・」

「梓はマジだったーの?」

「おそらく・・・」

「・・・そりゃきつい、わな」

「だったろうな」

「じゃなくて」」


雪は私の答えに「はぁ…」と溜息をつきながら答えた。


「そりゃ、梓自身もつらかっただろうさー、けど…、玲稀、お前もつらかったんだろ、どうせ」

「――…っ、私は…、梓に比べたらたいしたことないだ」

「ははっ、素直でなーいねー、玲稀」

「うっせぇ…っ!!」


コイツと話している時は恥ずかしい位に子供になることがある。
椋みたいに子供みたいになることが。


「マ。なんつっかさ?…それが本当なら私は許せないっすよ?お前と梓苦しめた…その男」


座り込みながら言うその女は笑ってた。
しかし、瞳はまっすぐ夜の闇を向いていた。

この女が隣に越してきてからは、コイツが必ず隣にいる。
それが日課になった。






pppppp..........



携帯の音。
いつもの男の子からの電話。
でも出る気がしない。

・・・今日、彼にあったからだ。

彼は怖い人だった。
見た目は笑顔で爽やかで・・・頭も玲稀ちゃんに次ぐ秀才だった。
人当たりも良くて人気者で。

けど、怖かった。
その笑顔の奥に何を考えてるのかが分からなかったから。

彼は危険だ。
家の為にならなんだってするから、
人を騙す事さえも、なんのためらいもなく、やってのけるから。

なのに、好きだった。






「ボク、野村さんのこと、好き…だったんだ?つきあってくれない?」


中学3年の秋。
不意に受けた告白。
私は顔を真っ赤にしながら返事をした。


「よ、喜んでっ」


そうしたらスグに私の大好きな笑顔で笑いかけてきてくれて、「ありがとう」と微笑んだ。
それが凄い凄い幸せで。


うれしかった。
でも、彼の目的はスグに分かった。玲稀ちゃんなのだと。


「会長ー、これ、書類です。今月分の」

「あぁ、サンキュ、そこ置いといてくれ」


生徒会の仕事をしていると、彼はいつも迎えにきてくれた。
あの笑顔で。


「梓、迎えに来たよ」

「っ!洋くんっ、ちょっとまってね、もうすぐ―」

「野村、もう帰っていい、後は私だけで出来る」

「でも」

「人の好意には甘えろ」

「・・・ありがとうございますっ」


玲稀ちゃんも優しくて何時も最優先にしてくれて、彼が迎えに来てくれたらスグに「帰って良い」といってくれた。


「梓、彼女と仲いいの?」

「彼女って、早瀬会長・・・こと?」

「うん・・・」

「うーん、仲良い、って言うより私副会長だからさっ、ふふ・・・っ、いっつもお世話になってるよ」

「・・・へぇ」


その時の彼の目は獲物を見つけた蛇みたいに光って…、ソノ視線は、私じゃなくって…、玲稀ちゃんを見ていた。


「―――…っ!」

「?どうしたの?梓、帰ろう…?」


私は…、差し出された手を握れなかった。




その後、スグ私は別れを切り出した。


「別れ?・・・ちょ、何で?ボク何かした?!」

「―・・・私には、会長のかわりは出来ない・・・っ」

「―――!」


私の言葉に彼は一瞬吃驚したようだったけど、すぐに「はぁ…」と溜息を。


「気付いてたの?」

「・・・・・・」


ただ、首を縦にこくっ・・・と下げた。


「・・・気付かなきゃラッキーだったのにね、好きな男と付き合えてたし、運良かったら抱いても貰えたかも」

「―――!私はそんなのが目的で―」

「純情なんだよなー、君は。顔は可愛いしスタイルも問題ないけど、」

「ボクがほしいのは彼女の地位、なんだよね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


絶望的な言葉。
その時、がさ…っと後ろから音がした。

私も洋君も一斉に振り向くとその人物にただ、目を丸くした。


「――っ!かい、ちょ・・・」

「早瀬さんっ!!」


私のノート、生徒会室に忘れてた物らしい。
明日の課題で必要だから届けてくれたんだ。とスグに分かった。

落とされれたノートで会長の表情を見るのが一瞬遅れてしまったけど。

早瀬玲稀はその時、泣きも怒りもせず、ただ、


「すまない」


と一言残して去っていく。
その時、全てが終わったと思った。

これが、【絶望的】というのだろう、と。

勇気がなかった。
だから、あの時玲稀ちゃんを追いかけることも出来なかったんだ。

勇気がなかった。
だからあの時、怒る事が出来なかったんだ。


私は、あの時とは違う。

もう、違うんだ。






パーティー会場。
これは、本当に人の住むための家なのか。
真っ先に椋のそんな質問が四葉に響く。


「や。普通でーしょ?」

「お前結構感覚ずれてるよね、雪」


そして、梓と玲稀の妙な気まずさに椋がが息を飲む。
しかし、雪が叫ぶとその空気はスグに入れ替わった。


「っしゃーー!!金持ちの御曹司探しー!!」

「んな所で叫んでる時点で『あの娘だけには近づいてはならん』な状況だろうよ、テメェ」

「うわー、その調子さー、玲稀ー、梓もー。ケーキ沢山あんぜー」

「マジ!?!?」

「テメェがハンノウすんなやぁ!!!」

「ってぇ!!だからドレス着てくれたほうが暴力がねぇと思ったのに!!」


そう。玲稀の命令で今日の服装は制服。
まぁ、四葉の制服なら軽蔑される心配もない上に生徒会バッチまで着用していると何も言われることはないだろ。

あくまで学校の代表としてきたという事にすれば家等の立場も多少は関係ない。
ソノ上、生徒会の生徒のみズボンもOKされているので、基本的に梓以外はズボンなのだ。

「さって、敵陣へ乗り込むぜーっ!」


ぐっ!と手で拳を作って椋が言う。
そうですとも。

乗り込みに行くんです。
その時後ろから大きな声。


「お前ら・・・っ!!!」

「あー?」
「は?」
「あ?」
「?ん…?」


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


声の主を見た瞬間に静まり返る玲稀たち。
そして、玲稀以外の一斉に声を上げる。


『四葉ヶ丘…?!?!』
『聖凛…!!!!』





楽しいパーティーの始まりだ。







NEXT
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パーティーは楽しくなきゃね。