生徒会朧月夜 10
(それは、精一杯の懺悔)
「ごめんね」
その言葉がいえなくて、涙が流れる。
淡く切ない。
この気持ち。
その時後ろから大きな声。
「お前ら…っ!!!」
「あー?」
「は?」
「あ?」
「?ん…?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
声の主を見た瞬間に静まり返る玲稀たち。
そして、玲稀以外の一斉に声を上げる。
『四葉ヶ丘…?!?!』
『聖凛…!!!!』
「何でお」
「しるか」
「最後まで言わせろよ…?!」
朝倉健こと健の言葉をすぐに理解した玲稀が言い終わる前に一言告げる。ここはパーティー会場の隅の隅。
出会ってしまったあの2校はよく分からないがそのまま一緒に固まってて隅の方にいた。
というか、下手に動くと四葉ヶ丘の生徒会メンバーときたらそれなりのお嬢様。
囲まれてうざいので仮にも男の聖凛と固まっているのだ。
「大体ナ?お前ら、俺らがいなきゃ今頃そこらへんのおぼっちゃまに囲まれて―」
「喉かわいたんじゃーない?ウーロンー」
「そーかもな、私も烏龍茶」
「椋ちゃんー、アズはアイスティーね」
「つっか、俺?!」
「・・・うぉーい」
「全くきいちゃいねぇな…」
健の叫びも軽く無視して、椋をパシリにしようとしている3人をみて、健を哀れみつつも純利が言う。
「ち…っ」
健の舌打ちに玲稀が何時もと違った印象を抱き、聞く。
「?今日は機嫌わるいのか?そこのでかいヤツ」
「朝倉健だから」
「じゃあ朝倉」
「――…ち…っ」
「舌打ちしてたってわかんなーいでしょーにー?」
雪の問いに「はぁ…」と拓が溜息をつきながら言う。
「今日のパーティー、健への嫌がらせみたいなものなんだ」
「?嫌がらせ?」
その言葉に疑問符を浮かべて椋が聞く。
「今回のパーティーの主催者ね、中山洋…なんだけど、あの一条寺学園の生徒会長で…」
「中山銀行の次期跡取り?だーしょ?」
「流石、成宮さんだね、金融機関の事に関しては凄い情報網」
「かるーく喧嘩売られてるきがしてならなーいーなー、宮坂さんやぁ?」
拓の発言に軽く反論する雪。しかし、拓は無視して話を進める。
「こうみえても健は朝倉銀行の跡取りだからね」
「――、」
健の実家の事を聞いて目を丸くする四葉ヶ丘。
「・・・お前」
「意外に…」
「ちゃんとしたところのお子さんでしたのだね」
「テメェらはいちいち喧嘩うってんのか?!おらぁ…!!」
今にも殴りにきそうな勢いの健を「ハイハイおさえてー」と言いながら拓と純利が止める。
その時、玲稀に差し出された飲み物が…。
「―…ど、どうぞ…っ!!」
「?は…?」
烏龍茶。
さっき椋にいったのだ。しかし、持って来たのは取りに行った、椋ではなく、さっきから姿が見えなかった準だ。
「お、お茶…っつか烏龍茶…!」
上目使い。という微妙な視線で言われる玲稀。
準の身長は、164cmそれに比べ女にしては伸びすぎた玲稀は168。
準はまたちょっとづつは伸びているので望みがあるのだが、今の時点ではまた玲稀より4cm小さい。
意識しているわけではないのだが自然に上目使いになるのだった。
「なーにー?私にー???」
そんな光景を面白く見たのか、雪が玲稀の肩を抱きしめがら、言う。
すると玲稀が、
「雪に?だったら―」
「え…っ」
「マジでかー…」
冗談で言った雪だったが玲稀はさほど気にも留めず準から受けとったお茶を雪に渡す。
その場にいた全員の視線(冷ややかな)が雪に注がれる。
『――――――――』
「わ、わり…、うわ…、玲稀アンタね…」
「んだよ?」
「はいよー、ウーロンーーとアイスティー」
玲稀が聞き返したとき丁度椋が戻ってくる。
お盆に烏龍茶を親切にも聖凛の分ものせ、ちゃんと梓のはアイスティーで言われなくれもレモンティーだ。
聖凛の勘のいい純利と拓がすぐに把握する。
「「(…コイツ普段からこんな事ばっかりさせられてんだろー…なー…)」」
「ほーらよ、玲稀」
「さんきゅ…、つか、お前何持ってきてんだよ」
「から揚げとケーキ…!めっさうまそう何だぜ!ここのっ!」
それを聞いて雪が蹴りをかましながら叫ぶ。
「敵陣乗り込んできて、自分の好物ほおばってどないすんねん!!!!ってか私はケーキとから揚げの組み合わせがきにいらない!」
「ってぇえ!!!」
「お前らナいい加減にしないと真剣に四葉ヶ丘の品格が疑われるぞ…!?!?」
パーティー会場でどうどうと喧嘩をしている2人に告げる健。
「はぁ…」と溜息をつきながら準の方を見る…。
「…う…っ」
まるで小動物を見守る親のような感覚だ。(どんなよ)
すると今度は雪が溜息をつきながらお茶を玲稀に渡す。
「コレ、明らかにお前にだろうが馬鹿」
「は?」
「やー。気付いてやろうぜ、玲稀ちゃん」
それを聞き玲稀は照れたように髪の毛を書き上げると、溜息をついて準に言う。
「サンキュー…な」
「――ッ!!い、いや…!別に…」
顔を赤くしながらそう言う準。
そんな光景に誰もが目を細めた。
すると、そこである男が入ってくる。
「今日は来てくれてありがとう」
「――ッ、洋…くん…」
「梓…」
ニコと爽やかな笑い方。
その笑い方はあの日の笑顔と一緒だった。
あの日あの時あの瞬間…、
あの場所で…、
彼には幸せをもらって、でも同時に絶望ももらった。
「テメェ…」
「あれ、健君まで…こんにちは、いらっしゃい」
「へいへい、本日は嫌がらせのお招き頂まことにありがとうございます、中山様」
「うわー、健すごい馬鹿みたいだよ」
「ほっとけぇ・・・!」
健の皮肉こみこみの言い方に見かねた拓が一言付け足す。
「相変わらずボクは嫌われてるんだね…」
「まぁ、君のやってることも大人気ないから仕方ないんじゃないの?」
「・・・君は?」
「聖凛の会計役員の、宮坂拓、今日はお招きいただきありがとうございます」
拓の声が響く。
コイツこんなに声低かったんだ…、そんな発見まで。
すると、中山は微笑みながら言う。
「そうですか、ありがとうございます…、早瀬さんもありがとう、わざわざ、天宮も成宮さんもね」
「いーえー」
「つっか、ケーキこれ何処―ッ」
椋はケーキがよっぽど気に入ったのか何処で購入したのか聞こうとした。
すると、玲稀の拳が綺麗に後頭部にきまる。
「ってーッ!、な、何すんだよ!!」
「天罰だ、おい、中山今日のパーティーの目的は何だ?」
「交流だけど?」
「何との?」
「何って…、普段お世話になってる企業様や」
「これから利用できそうな企業や…?か」
玲稀の率直な質問を耳にし目を見開く中山。
しかし、しばらくすると微笑んで言う。
「本当に、早瀬は昔からかわってないな、追求の達人…」
「生憎そこらへんの莫迦達とは頭の出来が違うんでね」
「はは、っ本当に」
その時の中山の目に梓が動けなくなる。
同時に、玲稀と拓以外の者達の背中に悪寒が走る。
しかし、そんな事も気に止めず中山が呟いた。
「かわってないなぁ…、早瀬さんは」
その言葉で一瞬の沈黙が走る。
しかし、玲稀がその沈黙を破った。
「・・・お前もな」
「・・・じゃあ、ごゆっくり」
「あぁ」
そういい残し近くにいた取引先の者だと思われるおっさんの方へ歩いていく。
その後姿をみて健が中指をたてながら言う。
「へっ、一昨日きやがれってんだ…!」
「お前のその反応はまちがってんだろい?」
健の反応に椋がつっこみをいれる。あぁ、椋が珍しく当然の事を言っている。
そんな風に思いながら玲稀は梓に近づく。
「大丈夫か?」
「・・・れ、い・・・ちゃんっ」
今にもなきそうなその表情に吃驚したのは聖凛メンバー。
あぁ、きっと影のドンだろうな、と思っていた梓がこんな表情をみせるなんて・・・、意外すぎる。
その光景にみかねて、準が聞く。
「お、お前らさ?さっきの話しようからして…昔アイツと何かあったのか…よ?」
「・・・・・・別に」
沈黙というわけでない、
明らかに言葉に詰まった様子の玲稀。
玲稀がこんな返答をするのも珍しいものだ。
しかし、椋が答えた。
「梓とアイツって昔付き合ってたんだってよ」
ケーキを「うめぇっ!」と言いながら1人蚊帳の外状態で遊んでいた奴が急にすっごい言わなくていい事をすらッという。
玲稀の左手と雪の右足がスパーンと綺麗に椋の腹と背中に入る。
「テメェな…」
「場の空気ってモン読めないのか?あぁ?」
『あ』に『゛』がついたような言葉口調で2人ともに睨まれ殴られ、蹴られた椋。
「ってぇぇぇ!!な、何だよっ!急に!」
冷や汗を流しながらも2人の表情は今にも殺されるかもしれないような表情。
「あぁ…、俺の命もここまでか…っ」と椋が確信した瞬間に梓は口を開く。
「ねぇ、玲稀ちゃん」
「・・・何」
自然と静かになった場の空気。
梓の頭には1つのことがずっとある。
『玲稀ちゃんには謝らなきゃ…』
「あの時は・・・、ごめんね?」
急に出てきた梓の言葉につい押し黙る玲稀。
雪も昨日玲稀から聞いた話で、すぐに悟る。
聖凛と椋は何が何だかわからない状態で玲稀と梓を見る。
―――。
「何が?」
「―…あの時は謝れなかったから…、勇気が、なくて…ごめんね」
「…だから何のことだよ」
玲稀なりの気の使い方なんだ。
「はぁ…」と溜息をつきながら髪を書き上げる梓。そして呟く。
「本当に、玲稀ちゃんは変わってないね…、洋君の言う通りだよ…、…本当に…優しいんだか、ら…」
「え、どこがだ」
「しっ、黙ってみてろつーんだよ、莫迦」
「なんでだー、ぅお…っ!!」
椋の相変わらず空気の読めない割り込みの言葉を純利が後ろから手で口を押さえて黙らす。
そんな光景を気に留めなかったのか本当に視界に入ってなかったのか…。
玲稀は梓の言葉に返す。
「優しい・・・か、」
「うん…、」
「お前は・・・変わった、な」
「え?」
梓に返す言葉。
「強くなったよ、お前…」
「・・・うん」
その言葉に微笑み返す梓。
そして、その後梓が言う。
「んじゃ、私ちょっとお手洗い言ってくるねー」
「おー、了解」
「多分ここらへんにいるー」
「えー?多分って何?雪ちゃん」
「おそらくっつー意味」
「はは、ちゃんと待っててね」
「モチバチー」
モチバチ。すなわち「勿論ばっちり」、という意味で雪が返すと雪に梓が言う。
「じゃー、行って来ます」
そういいながらかけて行く後姿を玲稀と雪は見つめる。その瞳に拓が聞く。
「ねぇ、彼女」
「なぁ、朝倉」
「?んだよ?早瀬」
「中山銀行は最近面白い事業に手出したんじゃないのか?」
玲稀が尋ねる。
すると、健はしばらく考えると、「そうそう…っ!」と言いながら口を開いた。
「何か日本の伝統の、茶道とか華道とか?んな感じのを世界に広めよう!とかほざいてやってるって噂だせっ!」
その言葉を聴いて雪が「はぁ…」と溜息をつく。
玲稀のよみは綺麗にあったた。
「ちなみにコレこっち関係の奴等しかしらないからあんま言っちゃダメな」
「パーティー会場で大声で叫ぶなや、じゃあ」
「あ・・・、マ。いっか」
「いいのかよ!?」そんな椋の声が会場に軽く響く。
ぶっちゃけた話さっきからこいつらすっごい五月蝿い。
本当におしとやかなパーティー所じゃない。
高校生の男女8名がそろえばそれは仕方がないといえば仕方がないのだろう。
だが、ちったー黙れや、テメェら。な大人たちの視線は軽くよけて話を進める。
「ってか、中山君って案外バーカ?」
「っは、ただの莫迦、だろよ、元々」
「うわー・・・お前らまら、敵陣に乗り込んできて敵陣の真ん中でそんな事を」
椋が汗を流しながら言う。
こういう常識面ではコイツが1番まともな感覚を持ち合わせているのかも知れない。
そして何が何だか分からない様子の聖凛サイドが尋ねる。
「?何それ、どういう事?」
「いやー、お前らには」
「関係ないーっつったって、俺情報提供者」
「うわっ、性格悪いんじゃなーいの?アンタ」
「はは・・・っ昔、何があったの?中山と野村さんに」
綺麗にはぐらかした玲稀と雪だったが、拓が最後の極めつけを爽やかに告げる。
…ちっ。
そんな舌打ちの音が2人分かぶった。その時椋も口を開く。
「そうだよ!教えろ!」
「あ?」
「テメェらばっかしってて、俺だけ仲間はずれみたいじゃねーかよ」
「うっわ、ガキ」
「んな…!梓は俺の事なんでもしってんじゃねぇかよ!」
椋のまっすぐな瞳は雪は苦手らしい。
「・・・はぁ、」
「・・・まぁ、簡単に言うと、」
雪の溜息の後に玲稀が口を開く。
みんな、怒ってるかな?
いや、そんな訳ない、よね。
だって、莫迦な椋ちゃんならともかく雪ちゃんと玲稀ちゃんは悟ってくれただろうし。
…玲稀ちゃんにも謝った。
何だろう、この吹っ切れた感は。
確かにさっきの洋君の瞳は覚えにあった。…今だって正直言えば怖い。
でも、もう何か…
何か、あの子の事で悩んでるのがくだらなくなってきた。
大きな部屋の前。
ココの向こう側にはアイツがいる。
ドアノブを掴んだ。
「野村梓、…ちょっといってきまーすっ!」
………………ふぅ…。
「誰もがー羨む位、顔可愛いからってさー…、…莫迦にすんのも対外にしろや、…あの野郎…」
全てがふっきれた、
コンコン、ノックの音。
そして声が返ってくる。
「ハイ?梓でしょ?どうぞ」
「洋くん・・・失礼するよ?」
「…いらっしゃい、待ってたよ」
ニコと微笑めば彼も微笑んできた。
その笑顔に私はもう、愛を求めることは…無い。
「なぁなぁ…!大樹…!」
「…んだよ…春…、お前こういう場では兄さんくらいつけ」
「!玲稀みた…!!!」
「――は?」
「アイツ可愛くてさ…!あぁ!もー我慢できねぇ…!抱きしめにー」
そういいながら走り出す男の頭に大樹と呼ばれた男の拳が命中した。
「ってぇ…!な…」
「…とりあえず、探すぞ…、親父にはあわせないようにしなきゃなんねぇ…」
「でもさー!すっげぇ可愛くって―」
「黙っとけ、早瀬の恥…っ!」
「ってぇ…!!」
「…玲稀…」
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大好きな人に好きって言って何が悪いの?