生徒会朧月夜 13
(それは、私情を挟むことは許されない弱肉強食の世界)
アイツらが大嫌いだ。
勝手に転がり込んできて、自分の物のように動かして。
世界が自分のためにある、と思ってる奴は嫌いじゃない。
利己的な人間もきらいじゃない。
ただ、何が気に入らないのか。
それは、
――母さんを殺したことだ。
支配している。
今、俺の頭を支配して埋め尽くしているのは、生徒会の輝かしい頭脳や成績、経歴を持つ三人。
俺一人だけ理解できない気持ちは何とも憂鬱で、大好きな体育の時間だと言うのに何一つする気が起きない。
バスケットボールは大好きだ。
コンプレックスだった身長を大好きにしてくれたから。
誰もがコンプレックスを持っている。勉強が出来ないとか、小さい頃は母さんから怒られたし凄い嫌だったけどこの頃はそんなんどうでも良かった。
むしろ、男と間違えられる身長が嫌だった。
でも、コレも玲稀たちとバスケに出会ってから変わったんだ。
全てが自分なら、それでいんだろうな。と思った。
けど、これほど自分の頭の観点の悪さを憎んだことはない。
俺だけ気付けない。
俺だけ分からない。
―俺だけ、理解できない。
分からないことだらけだ。―ったく、よ。
「って訳で、俺体育できねーわ…」
「お前何言ってんの?」
体育教師で、バスケットの顧問、森孝雄(もりたかお)。
身長が俺と同じくらいで顔は童顔。真ん丸い瞳は聖凛の城条準の未来を思わせる。
年齢も、今年大卒で新任だけあって、若い。
何もカモOKのこの男もただただ…性格がだめ。
「だめじゃねーよ。ってかお前、体育出ない気か?」
「ちっせぇ癖にうるせぇ」
「お前がでかすぎんの、つっか俺様の授業サボる気か?それこそただの木偶の棒じゃねぇか」
「お前は傷つきやすい思春期の少女に何てこと言うんだ」
「んじゃあ、思春期の少女から大人の女にしてやろうか?」
「こらこらー、押し倒すなー。体育館のマットを汚す気かー」
「俺たちの愛の結晶だろ?」
そう良いながら森孝雄は俺の胸に手を置いて体育館倉庫のマットに押し倒してくる。
そう、この男はどこでも女生徒を押し倒して遊んでる教師だ。顔が良いから何しても許されるらしいし、それなりに生徒を選んでやるもんだから訴えられたりもしない。
そんな光景に、がらり、と閉ざされた体育館の扉が開かれる。
「おいー椋馬鹿お前おせー…」
「えー?何々ー、雪ちゃんどーした…」
「「お邪魔しました」」
「してねーーーー!!待て待て待てっ!」
「ばっか、椋がさっさとしねぇから」
「お前は見境なしか」
「自分で言ってるー、うわーでも椋意外にも胸あるねー」
「死ねぇ!離せ、この野郎…!ヤるなら玲稀にでもシて来い!」
「だめだよ、あの子は理事長せんせーのお気に入りなんだから」
「えー、そーなん?」
玲稀が、理事長のお気に入りだったと意外だ。俺もソウ思った。
理事長は玲稀のこと嫌ってると思ってたからな。
同意権だったのか、話に参加してきた雪に孝雄はにっこり、と笑いながら返す。
俺はそんな孝雄を押しのけてマットの上に座る。
靴紐が解けてるのに気付いて直す。
「そうだよ、僕自分の首絞めるようなことはしないから」
「今の行為はむっさくさ絞めてんじゃなーいの?」
「何々、成宮そんなに俺のこと好きなの?嫉妬?かわいいね〜」
「はは、サンキュー、って椋を口説いてたそばから私口説かれてね?」
「森先生も大概にしないと本当に自分の首絞めますよー」
梓が言うと孝雄は笑いながら「そーかもねー」とまるで他人事。
そんな孝雄に、はぁと溜息を吐いたかと思えば梓は俺を見て来て口を開く。
「椋ちゃん、今日スカートなの?」
「…あー、洗濯したら無くて」
「だから俺が椋に手出しちゃったの、だったら俺は悪くないね」
「見境無いお前が悪い」
雪が孝雄に厳しく突っ込みを入れた。
あぁ、そうか。と俺は呟く。
何でいつも俺になんか眼もくれない孝雄が手を出してきたのかが分かった。(普段からセクハラはあるけど)
あれ以降うちには郁が普通に出入りするようになり俺の身の回りの服とかを勝手に整理したり洗ったりしてる。
「女の子なんだから、かわいい服を」って言って買って来るもんだから女物の服も増えた。俺のサイズではかわいいのがなかなか無いからって言って海外から取り寄せてくれてるらしい。
そこまでされたら着ないのも失礼なものだし、昨日も制服のスカートも新調してくれたらしく変わりにズボンを洗濯に回されて、朝はびっしょびしょ。
って訳で仕方なくスカートを着てきた。って言っても下にはジャージの短パンはいてるしどうってことない。
梓に凝視されて、疑問符を浮かべながら尋ねた。
「ンだよ…?」
「…何でもないよ」
「…そっか?…んじゃあ、孝雄そういう事だからよろしく」
「えー、マジで出ないのー?」
「…?お前欠席すんの?」
今度は雪が俺に言ってくる。
俺は躊躇いがちかに返した。
「…気分じゃ、ね…」
「気分て…熱があっても何でもいつでも出るじゃない、どうしたの?」
「別に、お前等には関係ない」
「……」
俺の返事に、雪と梓は顔を見合わせて考えている。
何だよ、俺だってそれなりに悩みくらいあるんだっつの。
倉庫を出ようとした所で雪に呼び止められた。
俺は黙って振り向くと返事を待つ。
「…何か、私たちしたの?」
「…いや、ただの俺の自己嫌悪」
「あ?訳わかんねーんだけっど」
梓の質問にまた微妙な答えを返したもんだから、雪が今度は俺に向けてイラだった様に返してきた。
俺は、告げた。
「…誰だって隠し事の一つや二つあんだろ、んじゃーな」
言ってから後悔する。
頭で思ったことをスグに口にするんじゃなくてのどの辺りでその言葉が本当に言って良い言葉なのかを考えてから口に出す。
頭では分かっても、俺は馬鹿で本能に忠実な女だ。
でも、この言葉でまた俺達がギクシャクするんじゃないのかと言う考えはまんまと的中する。
「孝雄悪かったな」
「今度お礼してね」
「言うほどお前、役に立たなかったぜ」
「あれー…まぁいいや。椋の相談だから受けたんだよ」
「じゃあ…俺も、お前だから相談した」
じゃあ、という所を強調して孝雄に告げた。
そして、体育館を去る。
途中、何人かのクラスメイト達が話しかけて来た。
「あれ、天宮さん、ご欠席ですか?」
「あー、気分優れなくてな」
「それはお大事になさってくださいねっ」
「おう、お前等も怪我すんなよ」
「はいっ」
俺と話せたことがそんなに嬉しかったのかソコまではしゃぐことなのか。
俺が背を向けた瞬間に、きゃあきゃあと声を出す女の子達。
――あぁ、俺はそんな好かれて憧れるような女じゃねーって話。
俺達の中に出来た、溝と不安は、確かに俺を崩していた。
理事長室に、電話の声が響く。
「早瀬さまじゃないですか、いかがいたしました?」
( )
「――、それは、それは、ありがとうございます。こちらとしても、学園に多大な融資をして頂けるのでしたらお断りする理由はございません」
( )
「…あぁ、その件ですか。そんなの、簡単なことですよ」
「――前生徒会長を失脚させれば良いだけのことですから」
動き出していた。
全てが。
私が知らない間に、私のいる隣の部屋で。
放課後になり、大体の生徒が家からのお迎えが来て帰宅する。
そんな中で、あの四人がやって来た。
「何度みても、圧倒されるな、この学校」
「そりゃ、馬鹿みてーに広いしな」
「…よ、よその学校の悪口ゆーなよ…」
「下らない揉め事を起こす発言は控えろ」
聖凛の奴等は相変わらずお気楽だった。
別に変化なんか求めちゃいねぇがな。
とりあえず、梓がソファーへと案内して着席させる。
雪が紅茶をいれている。荒々しくはあるが元が良いので何とかなりそうだ。
私は、コピー用紙を適当に取ってペンをペン縦から取り出す。
そして、聖凛の方へ行く。
「…待たせたな」
「紅茶、頂いて、ます」
「あぁ、どうせ学校の金だ、気にすんーな」
城条の言葉に、返したのは雪だ。
ふと、生徒会長室を見渡し一人こっち側の人間が足らないのに気付く。
「椋はどうした」
「………」
「………」
雪と梓に尋ねる。
しかし、私の質問に対して納得のいくような言葉どころか、雪と梓は顔を見合わせたまま黙り込んでいる。
―面倒くさいことになってソウだ。
「どうした」
「…え…と、」
「知らねーよ、あんな馬鹿」
雪の言葉で、何らかのことをやらかしたのか。と言うのは、理解した。
聖凛の副会長である朝倉健が口を開く。
「何だ、喧嘩か?」
「…アイツ、午後から授業サボったまま電話にもでねぇしメールも返してこねーんよ?マジ、うざい」
「…ただの喧嘩にしては随分と感情的に怒ってんじゃねぇか、お前」
雪の返答は、いつもの雪らしくなかった。
こいつは、イラつきを覚えた時には信じられないくらい感情的にものを言うことがある。
私が雪に言うと、雪は黙ってソファーに座り煙草に火をつける。
このままでは埒が明かないと、今の雪に物事を相談することは止める。
その代わり梓を軽く睨んだ。
「…や、やだなぁ…、そんなに睨まないでよ…っ」
「んじゃあ、何があった」
「…わかんないけど、椋ちゃん、きっと何か困ってるんじゃないかな」
「ンだそら。んなことで生徒会サボって良いとおもってんのか」
「でも、そんな理由も、その生徒会にあるんだろ」
私の言葉に、割り込んできたのは神内純利。
私とアイツの瞳と瞳がぶつかって火花を散らすようにお互いに睨みあう。
私が言った。
「言っとくけどな、私はお前が嫌いだ、見た目が」
「…生憎だが、俺もお前のこと大嫌いだな。性格が」
「お前に、性格どうの言われたくねぇよ」
「んじゃあ、口調か?それでも女か?お前は」
「って何で、純利と玲稀ちゃんが喧嘩するのさ」
冷静に突っ込みを入れてきたのは宮坂。
私は、溜息をはいて宮坂に心の中で礼を言った。
確かに、ここでアイツと喧嘩する意味は分からない。ただ、嫌いなだけだ嫌いな。何となく気に入らない。
私は携帯を取り出して、アドレス帳を開く。
天宮椋、の あ だ。最初に出てくる名前の奴の携帯電話の番号をディスプレイにうつして電話を発信する。
「…でねぇーってば。玲稀」
「そうだよ、私達も何回も電話したんだよ?」
「あ?んなんお前らだからだ――」
(もしもしっ?)
「どうやら、出たみたいだよ?」
「「………」」
宮坂が梓と雪に向けて言うと二人は黙ってお互いに顔を見合わせる。
また、随分と気にいらなそうな表情だ。
私は電話元の声の主に言う。
「……お前何してんだ?」
(悪ぃ!寝てたらンな時間に、黄昏てたんだよ)
「…へー…。んじゃあ、どうでもいいけどさっさと来い。聖凛来てる」
(マジで?わかった、スグに行く!)
「椋」
(…?あんだ、よ。あ、煙草?いいよ、丁度目の前に自販あ―)
「待っててやっから早く来い」
(――っ…あ、うん。了解早く行く)
「…泣いてる情け無い顔なんて、見せんじゃねぇぞ」
そうとだけ残し、一方的に電話にきる。
これだから、馬鹿は困る。
私が言った言葉が気になったのか、梓が言ってくる。
「椋、ちゃん。泣いてた、の?」
「…声、もれてたの聞いてるとソウでもなかったけど」
続けて朝倉も言ってくる。
私は返した。
「…泣いてた後の、声、ってな。独特なんだよ」
「……もしかして、本当に…」
「アイツは、馬鹿だから、な。自分のこと責めるしか術を知らねーんだよ。雪、…分かったらもう許してやれよ」
そう言うと雪は私の方を見て、黙っていたが暫くして首を縦に振りながら私に尋ねる。
「…ンだよ、いつも一緒にいる訳じゃないお前の方がアイツのこと詳しいのかよ」
「どうでもいいだろが、ンなこと。…でも、少なくてもあいつには私達に勝ってるところばっかだろ」
「…あーっ、もう…!訳わかんねー!!」
雪が叫ぶ。
だからガキとバカは嫌いなんだよ。
けどそれは、私にとって、自分に嘘をつかずに生きてる姿が羨ましいんだ。
「……、それじゃあ、椋ちゃんが帰ってきたら、お話しようか」
「…あー?そういやぁ、本題だよ、それが。」
宮坂の言葉に、雪が言う。
そして、宮坂はにこやかに、告げてきた。
「今度の朧月夜のゲームと、…あ、あと、是非…、うちに来た新しいメンバーを紹介したいな」
「…新、メンバー?」
その言葉を聴き、何となく悟る。
――面倒くさいことになりそうだ。
NEXT
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つーか、はちゃめちゃ学校だな。まともな教師がいねぇ。